[エッセイ]実験 トヨオカものがたり絵巻(トヨオカの部分は土地に合わせて変更可能)
手順
巨大な巻物をつくり、巻物に稲荷神社の創建と大石りくの生誕から始まる年表を書く。空白部分を多くつくり、立ち寄った人たちがそこに自分自身で思い出した街の出来事や世界史的な出来事や、個人的な出来事などをなんでも書き込めるようにする。
話の種になり、記憶を引き出すような書き込みをあらかじめ数個書いておく。
例えば、大阪万博開催年が1970年、豊岡市民会館設立が1971年であり、その年表を並べてあらかじめ書いておき、その前後に自分や街になにが起こったかを思い出してもらう。
ゆっくり話せるための場所としてテントと椅子、ダルマストーブを用意してもらい、ストーブでお茶を沸かして振る舞う。コミュニケーションが勝手に生まれるようにし、またそのコミュニケーションにグラデーションが生まれるように工夫する。
最後に書き込まれた年表の言葉を全部マイクで読み上げ、締めに自作の大石りくと稲荷神社にまつわる短い戯曲を読み上げる。
祭りの構成は、14時:開始(神事があり、御神火をたく)、18時半:餅まき一回目、19時半:餅まき二回目 20時:終了
であり、17時に一回、18時にもう一回、場内マイクでラジオを行った。ゲストとして、参加してくれた町の歴史をよく知る人たちを招き、お話を聞く形で行った。
また、本区の区長に相談し、マイクで巻物を読み上げるパフォーマンスは二回目の餅まきが終わったすぐ後に、祭りを締める行事として配置させてもらうことにした。
結果
天候の不順などアクシデントはあったが、街の内外の人が昔話を共有し合ったり、年表によって災害のときを思い出して防災の話に発展したり、子供が自分の目標を書き込んでくれたりして、とても盛り上がった。歴史や世界と自分、豊岡という街と自分の距離は人によって違う。その違いを感じながら、バラバラなままに一つの巻物を作っていく時間はとてもいい体験だった。また、最後にその巻物を読み上げる時間も、初午祭という土地の時間のサイクルと密接な祭りの、その構成の中に入れてもらって行えたことで、本当に何度も体験することのできないような時間になった。この土地のものがたりを、ここに生きてきた人と外から来た僕が共に記述し、読み上げる時間は、今ここに存在しながら、記憶の束を知覚するような体験になった。
巻物は、本殿の側面に貼っていただくことができ、御神火を囲みながらのパフォーマンスになった。りくの戯曲を読み終えたあと、感謝の言葉をかけていただいた。その瞬間、今ここにいる人達とバッチリ目線があって、同じ地平でつながっているような不思議な感覚になった。
山田淳也